●エメリン・パンクハースト
エメリン・パンクハースト(1858 – 1928)は女性参政権の獲得に尽力した英国の活動家である。タイムの20世紀の100人も選ばれている。過激な活動を展開し、何度も投獄をされた。名演説家としても有名であり、1913年の米国ハートフォードでの演説(Freedom or Death)は、キング牧師の演説(I have a dream)と並んで『世界を動かした21の演説』に選ばれている。
キング牧師の演説(I have a dream)、ジョン・F・ケネティの演説(Ask not what your country can do for you)、チャーチルの演説(We shall fight on the beaches)などの歴史的な名演説の特徴はなんだろうか。『世界を動かした21の演説』の著者であるクリア・アボットは演説についてこのように指摘している。
「耳に残りやすい一言だけが求められがちな今日だが、最良の演説にはシェイクスピアを思い起こさせる力がある。人々が置かれた状態をほとんどの人が理解できるように伝えるために、説得力のある文体と斬新なフレーズが駆使されている。詩のようでもあり、実際にリズムから繰り返しまで、詩人の技法が多く使われている」(アボット、2011、P17)
『世界を動かした21の演説』で紹介されている演説は全て外国語の演説である。見事な演説は論理的な「内容」とリズミカルな「文体」で構成されている。しかし、翻訳された演説は、「内容」は伝えるが「文体」までは残らないことが多い。パンクハーストの演説もやはり翻訳ではそのリズムカルな文体が伝わっていない。なので、原文(Freedom or Death)を読んでみた。
●I am here as a soldier
パンクハーストの演説を原文で読むと、そのリズムカルな文体が心地よい。キング牧師のあの有名な演説で、”I have a dream” が繰り返されているように、パンクハーストの演説も “I am here” が繰り返されていることが分かる。演説では “I am here” に力を入れ、観衆を鼓舞していたのではないかと思う。
I am here as a soldier who has temporarily left the field of battle in order to explain what civil war is like when civil war is waged by women. I am not only here as a soldier temporarily absent from the field at battle; I am here as a person who, according to the law courts of my country is of no value to the community at all.
パンクハーストは、アメリカが自由を勝ち取った独立戦争の話(代表なくして課税なし)を持ち出しながら、同じ納税者である女性に参政権が認められていない不当性を訴える。ユーモアのある話もする。お腹をすかした赤ん坊が2人いる。「泣きわめく赤ん坊」と「我慢強い赤ん坊」である。どちらが先に大人がかまってくれるだろうか。言うまでもなく、「泣きわめく赤ん坊」である。これこそ、政治の歴史そのものであると訴える。
また、独立戦争のハイライトのひとつであるボストン・ティー・パーティ事件の話も面白い。独立戦争を闘った男たちはなぜボストン湾にお茶を捨てたのかと。お茶を捨てられて困ったのはだれかと。なぜ男たちはお茶でなくウイスキーを捨てなかったのかと。男たちが賛美する戦争は女性の犠牲の上に成り立っていると訴える。演説の最後は ”So here am I” から始まる。この闘いはアメリカのみならず、世界のためだと訴え、聴衆の闘いへの参加を訴える。
So here am I. I come to ask you to help to win this fight. If we win it, this hardest of all fights, then, to be sure, in the future it is going to be made easier for women all over the world to win their fight when their time comes.
●言葉で人を動かす
パンクハーストの演説をはじめ、歴史的な名演説の特徴は、「論理的な構成」、「具体的なエピーソード」、「リズミカルな文体」にあるのではないだろうか。そして何よりもその言葉で人を動かす。そして、これこそが名演説なのである。心から発せられた言葉は人を動かし、未来を変える。オバマ大統領も引用したデュバル・パトリック(マセチューセッツ州知事)の演説(Just words)は、名演説が何かをよく語っている。
But her dismissive point, and I hear it from her staff, is that all I have to offer is just words. Just words. We hold these truths to be self-evident…Just words. Ask not what your country can do for you…Just words. I have a dream. Just words. Let me say it before you do. I am no Dr. King, no President Kennedy, no FDR, no Thomas Jefferson. But I do know that the right words, spoken from the heart with conviction, with a vision for a better place and a faith in the unseen, are a call to action.
人類が生み出した最高の発明は何か。中学生の時の国語の宿題で「言葉」であると書いた。言葉がコミュニケーションを生み、人類の英知を伝え続け、社会を発展させてきた。こんな趣旨の作文を書いて、先生から誉められたことを覚えている。言葉で生き、言葉で死ぬ政治家。私も政治家のはしくれとして、言葉で未来を語り、言葉で人を動かし、言葉で社会を変えたい。道のりは長いが。
●参考文献
クリス・アボット(2011)『世界を動かした21の演説』(清川幸美訳)英治出版。
http://www.amazon.co.jp/dp/4862760961
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