●日本はマイナス6%を達成できるの??
京都議定書の採択から15年。日本はマイナス6%の温室効果ガスの削減義務を負った。2012年が最終年である。電力の火力発電の割合が高まる中に日本の目標は達成出来るのだろうか。基準年である1990年の日本の温室効果ガスの排出量は12億6,100万トン。目標達成には7,500万トンの削減が必要。前環境事務次官の小林光氏(慶応大学教授)の試算によると、原発が全停止したとしても、追加的な省エネや排出枠の追加取得などでマイナス6%の目標値は達成が濃厚とのこと。
平成23年12月に内閣府が発表した速報値によると、日本全体の温室効果ガスの削減量はわずか0.4%。にもかかわらず、マイナス6%の目標値の達成が可能であるのは、京都メカニズムの効果が大きい。京都メカニズムとは、国家間の排出枠の取引である。政府は2006年から2011年までに約1,516億円を投じ、約9,800万トンの排出枠を購入した。2009年にはグリーン投資スキーム(GIS)でウクライナの3,000万トンの排出枠を約400億円で購入し、大きな話題となった。
政府の排出枠の取得価格は平均すると1トンあたり約1,500円である。しかし、排出枠の取引価格は昨年来より暴落している。買い手がEUと日本にほとんど限定される中に東欧諸国からの排出枠の供給が過剰なためだ。排出枠の取引価格(N-J Carbon)は、3,821円(2008年7月14日)の最高値から345円(6月11日)へと90%以上も下落しているのだ。そんな中に市場価格の約30倍となる1トン約1万円で排出枠を買い取ってくれる自治体があった。京都市である。
●DO YOU KYOTO? クレジット制度って何??
京都市は全国初の地球温暖化防止条例を制定するなど、京都議定書の採択地にふさわしい先端的な温暖化防止に取り組んでいる。2010年には同条例を改正し、2020年度までに25%、2030年度までに40%のCO2の削減義務を定め、さらなる地球温暖化防止に取り組んでいる。その取り組みのひとつが「DO YOU KYOTO? クレジット制度」である。この制度は国の排出枠の取引制度(J-VERなど)を補完する制度として設計された。「小規模」、「分かりやすさ」、「低コスト」をコンセプトとしている。
京都市のクレジット制度はシンプルで分かりやすい制度として他都市からも参考されるなど、一定の評価を得ている。国の制度はCO2の削減者とCO2の購入者が相対で取引をする。この取引にはオフセット・プロバイダーと呼ばれる仲介業者が取引の支援を行うこともあるが、削減者と購入者のマッチングが円滑に進まない。そのため、京都市の制度はCO2の削減のクレジットを京都市が買取り、それを京都市が販売する制度となっている。
●何が問題なの??
京都市のクレジット制度では、現在まで9件の削減プロジェクトで160トンのクレジットを京都市は買取ったものの、その販売は1件(2012年5月26日の京都サンガのカーボンオフセットマッチ)の2.7トンのみである。つまり、京都市はクレジットの買取り超過となり、157.3トンのクレジットが在庫として抱えている。排出枠の買取りが順調なものの販売が低調なのは、取引価格が1トン1万円(50トンを超えると1トン5千円)と市場価格の約30倍であるためだ。
2重行政の問題もある。京都市は2011年8月からクレジット制度を開始した2ヶ月後に、京都府も独自のクレジット制度(京-VER)をスタート。この京都府の制度は国の制度に似ている。相対取引のため、価格は取引ごとに異なる。京都市内の中小企業やコミュニティの場合、京都府の制度、京都市の制度のいずれかを選択でき、選択の幅が広がったと言える。しかしながら、京都府の制度は買取り価格が一定ではなく、市内の事業者にとってのメリットは低い。
京都議定書の有効性を疑問視する声もある。京都議定書は最大の排出国である中国が不参加であり、米国も離脱。参加国はほとんどEUと日本だけである。参加国の排出量のシェアは27%(2008年)であり、確かに有効性には疑問がある。そもそも二酸化炭素の増加は地球温暖化の原因でないとの主張まである(深井有、2011)。しかしながら、温室効果ガスが地球温暖化の原因との見解が一般的であり、地球温暖化防止の取り組みは省エネの効果もあるので、その必要性は認めたい。京都議定書の採択地である本市の先導的な取り組みも評価できるが、「DO YOU KYOTO? クレジット制度」は課題が多く、事業の見直しが必要である。
●参考文献
小林光(2012)「脱原発依存時代の温暖化防止策」日本経済研究センター。
地球温暖化対策推進本部(2011)「京都議定書目標達成計画の進捗状況」。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/2011/1220.pdf
深井有(2011)『気候変動とエネルギー問題』中公新書。
http://www.amazon.co.jp/dp/4121021207